企画展「第10回 石州和紙に描いた日本画展」作品解説

 

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【1】

【石本正と石州和紙】

石本正が石州和紙と出会ったのは、1999(平成11)年、石正美術館の内装に使う石州和紙の打ち合わせのために設計者の金多潔氏(京都大学名誉教授)と共に工房「石州和紙久保田」を訪ねたときだった。この時、石州の紙で日本画用の紙を漉いてもらえないかと提案したことがはじまりだった。

石本が生まれた石見地方では、農家の副業として古来より広く石州和紙が漉かれてきた。戦前の昭和15年には664戸の製紙業者があったが、第2次世界大戦を境にその戸数は減少の一途をたどり、現在では三隅町内の4戸によってその伝統技法が守られている。

この地域の多くの人にとって、昔から和紙漉きの情景は日常生活に溶けこむ身近なものでもあった。ただ石本が幼少期を過ごした集落には戦前に製紙業を営む家はなかったようで、絵を学ぶため昭和15年に故郷を離れた彼が紙漉きを当時から身近に見ていたかどうかは定かではない。しかし、この美術館が建設される事となって改めて故郷をかえりみた時に出会った石州和紙は、生涯をかけてきた日本画と、自らの原点である故郷とをつなぐ大きな役割を果たしてくれる大切なものとして目に映ったのではないだろうか。

彼は特に、漉きあがった紙を板に貼り付けて天日乾燥させることによって表面に残る板目模様を大変気に入っていた。まるで紙の方から描き方を教えてくれるようだと話し、イマジネーションを刺激する紙として高く評価して最期まで故郷の和紙の上に夢を描き続けた。彼の提案から生まれた和紙は「石正紙」と名付けられ、いまも多くの画家に愛されている。

 

 
 

 
【2】

学芸員の目【伝統へのこだわり】

石本正が90代のあるとき、とても怒った様子で美術館に電話をかけてきたことがあった。その内容というのは、届いた石州和紙に板目模様がなかったため、伝統的な方法を怠って鉄板乾燥したのではないかと思い指摘するものだった。それを受け美術館はすぐに職人に確認したが、間違いなく板で天日乾燥したものを送ったと言う。

板目が消えていた原因は新調したばかりの干し板にあった。これまで使われていた古い干し板は、何十年もの間に木自体が枯れて板目の凹凸が深くなり、紙の表面にもそれがくっきりと残る。一方新しい板は板目が残らず一般的にはきれいで美しい紙に仕上がるのだが、石本にとってその板目模様こそが石州和紙の魅力のひとつでもあったため、その後彼には昔からの古い板で乾燥させた紙を必ず送るようになった。

この時の騒動は板目がなかった理由を説明して解決したが、伝統技法を守って漉かれる故郷の和紙を使うということに、画家がいかにこだわっているのかということがうかがえた出来事でもあった。

 

 

 

 

【3】

【石州和紙の里】

石州和紙、石州半紙は原料に楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)の靱皮(じんぴ)繊維と呼ばれる外皮の内側の柔らかな部分と、補助材料として「トロロアオイ」の根の粘液を使い、漉(す)き上げられる。

中でも最も生産の多い石州半紙(楮紙)は、日本の手漉き和紙の中でも特に強靭(きょうじん)な特質を誇り、現在では美術品修復の現場でも国内外を問わず広く使用されている。この強靭さの要因のひとつは原料の石州楮にある。山に囲まれた豊かな石見の大地で育つ楮は、その外皮の繊維が他地方の楮に比べて光沢があって細く長いという。

また、良質な楮を育てる大地は紙すきに適した軟水を生み、古代から脈々と受け継がれてきた技術によって強く風合い豊かな石州和紙が漉き上げられる。楮を育て、原料を加工し漉き上げる工程は、江戸時代の「紙漉重宝記(かみすきちょうほうき)」に描かれた光景とほとんど変わらない。石州和紙は自然とともに生きてきた石見の人々の文化そのものを反映したものであるともいえるだろう。

※参考文献:高田宏「和紙千年」(東京書籍)

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【4】

【今回使用した和紙について】

『石州和紙に描いた日本画展』は、作家の方々や和紙関係者、地元の皆様のご支援をいただき、このたび第10回目を迎えることができました。当館では、これまでに出品していただいた作家の方々に和紙の使用感を伺い、独自に調査を行ってきました。

2012年春、この調査結果を地元の和紙職人に提供し、本展で使用する石州和紙の制作をお願いしました。そして、強靭で独特な風合いを揃えた趣の異なる4種類の石州和紙、「白仙紙」・「石正紙」・「人天紙」・「石州特種判-131」が提供されました。第3回展以降これらの和紙の中から描きたい紙を選んでもらい、作家の好みに合わせて厚みを変えて漉かれています。中にはこの4種類以外の紙を試してみたいという方もおられ、石州和紙を使った日本画表現の可能性が一層広がりつつあります。石州和紙の各工房のサンプルは、石州和紙会館のご協力を得て展示しています。ぜひご覧ください。

本展を通じて、さらに作家と石州和紙の距離が縮まり、地元の伝統文化と芸術を愛する方々の懸け橋となることを願っています。

 

 

 

 

【第9回(2019年) 石州和紙に描いた日本画展 出品作品】

【5】

サガリバナ

 

 

 

 

【6】

海の中の蜃気楼

 

 

 

 

【7】

鳥の歌

 

 

 

 

【8】

琵琶湖群遊図

 

 

 

 

第10回 石州和紙に描いた日本画展

 

【9】

鳥の歌

 

 

 

 

【10】

出るために見る夢

 

 

 

 

【11】

あの刻

 

 

 

 

【12】

舞

 

 

 

 

【13】

青い花びら

 

 

 

 

【14】

初夏

 

 

 

 

【15】

風化

 

 

 

 

【16】

茜

 

 

 

 

【17】

かくれ里

 
 

 

 

【18】

竹叢

 

 

 

 

【19】

湖畔

 

 

 

 

【20】

樹の時間

 

 

 

 

【21】

Dialogue
 
 
 
 

【22】

供物
 
 
 
 

【23】

ラダックの旅から
 

 
 

 

【24】

椿・明石潟
 
 

 

 

【25】

旅途をゆく

【26】

初夏の風
 
 
 
 

【27】

結の祭り
 
 
 
 

【28】

結の祭り
 
 
 
 

【29】

朝
 
 
 
 

【30】

木と少女

 

 

 

 

【31】

うみの中の蜃気楼

 

 

 

 

【32】

ラクリメ

 

 

 

 

【33】

時

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