石本 正の作品

「女」
1953(昭和28)年
1953年に発表した「高原」と「女」(本作)から、石本の画風は一変した。画集で見た中世ヨーロッパのロマネスク時代の壁画に惹かれ、その特徴をそのまま作品に導入したためだった。
太い線に簡略化された形。ルネサンス以降の写実的で華やかな絵画とは異なる、素朴かつ生命感溢れる表現にロマネスクの画家たちの心を感じ、強い憧れを抱いた。新しい表現が求められる時代の流れもあったのだろう。ロマネスクに取材した一連の作品は、新制作協会展において大変高い評価を受け、3年連続で新作家賞を受賞した。
その一方で、画家はこれらの作品に対し「画集に寄りかかりすぎていた」と考えるようになり、その後同じ画風で描くことを止め、これらの作品はこの美術館ができるまで倉庫から出すことはなかった。
しかし、表現が直接反映されることのなくなったその後の画業においても、中世ヨーロッパ美術がもたらす感動は彼に多大な影響を与え続けることとなる。